大型商業施設の開発・運営に携わる方にとって、売上予測の定番はハフ・モデルでした。全然当たらないと文句を言いながら、GISソフトで計算されている現場を多く見聞きします。
残念ながら現在ではハフ・モデルはほとんど役に立たなくなってしまったと言えます。本記事ではハフ・モデルから機械学習モデルにシフトすべき理由をご紹介します。
ハフ・モデルは消費者が複数の商業施設からどの施設を選ぶのかといった選択行動を、"施設の魅力度"と"施設までの距離"によって求めようというモデルで、経済学者のデビット・ハフ博士(米)が1960年代に考案しました。"施設の魅力度"は一般に施設規模で単純化されるのですが、これはつまり"小さい施設より大きい施設に行く確率が高く"なり、"家から遠い施設より近い施設に行く確率が高く"なる、ということをモデル化したものです。郊外化とマイカーの普及によるモータリゼーションを前提にしたモデルです。
1960年代当時は大型スーパー、郊外型ショッピングセンターが盛んに開発された時代です。都心から郊外に人口が広がるスプロール現象の波に乗って、大規模な商業施設の開発が進められました。このような世界では、消費者が"施設規模と施設までの距離で選択行動を変える"という理論は一理あるように思えます。
しかし、果たして現代の日本においてその仮説は通用するでしょうか?
施設の魅力はそれぞれの消費者の価値観に依存する部分が大きくなり、通勤・通学を含む複雑なトリップパターンのもとでは自宅からの距離だけでは測れないアクセス性に選択行動が大きく左右されます。また、日本の場合は公共交通機関が発達しており自動車の移動だけで説明できる立地は限られます。
さらに商業施設が売上予測に期待する課題の質も変化してきています。
新店のオープンより既存店の活性化、テナントミックスによる施設の魅力度向上、クリニックやスクールなど複合業態における収益性の評価などハフ・モデルが考案された当時には想定されていなかった問題に対応しなくてはなりません。
このようにハフ・モデルでは解決できない課題に対しても、機械学習モデルは柔軟に対応することができます。
機械学習は売上に影響する様々な要因を加味してモデル化するという点で、考え方がハフモデルと大きく異なります。例えば、機械学習では下記のような要因を加味したモデルを作成することができます。
実際にはこれらを全て投入するのではなく、ビジネスモデルに合わせて取捨選択していくことになるのですが、"施設規模"と"距離"だけを前提としているハフモデルよりかなり精度の高い売上予測が実現できるのがお分りいただけると思います。
さらに投入する要素を工夫することで、様々な課題に対応する柔軟性の高いモデルを作成できます。例えば、以下のような応用が可能です。
日本全国にプレミアム・アウトレットを展開している三菱地所・サイモンでは、新規アウトレットの立地探索を機械学習モデルによってシミュレーションをしています。
これまでハフ・モデルを使って新店立地を探索しようとすると、その結果は想定の範囲内であったり、仮説を立てるために多くの恣意的な操作が必要であったりと、納得のゆくシミュレーションができなかったそうです。しかし、弊社が提供した機械学習モデルを利用することで、「勘や経験からは導き出せない意外な結果も見つかりました」とインタビューで伺っています。
さらに、この機械学習モデルは施設規模の拡大による収益性のシミュレーションや、最適カテゴリー構成の算出など様々な課題に応用いただいています。
[参考]“機械学習モデル×空間モデル”のハイブリッドモデルで 全国のインターチェンジを網羅的に評価
機械学習モデルには、学習データが必要です。自社施設の売上高やスペックといった自前のデータがない場合でも、繊研新聞が毎年発表している「SC売上高ランキング」などで公開されているデータを利用することもできます。
人口、世帯数、昼間人口、商業統計、Geodemo®️など立地に関するデータを準備して、「SC売上ランキング」と組み合わせることによって様々な立地における商業施設の収益性を評価することができます。機械学習モデルでは面積を変えた場合、周辺の居住者のタイプが変わった場合、周辺の施設の規模やスペックが変わった場合など、様々なシナリオのシミュレーションも可能です。
データの準備・活用方法、プロジェクトの工期や費用感、過去プロジェクトの詳細などご案内させていただきますので、商業施設の売上予測でお困りの方はジオマーケティングにお気軽にご相談ください。