新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、多くの商業施設が営業時間の短縮を余儀なくされています。賃料に関してテナントとの交渉に奔走されていらっしゃる様子が様々な商業施設から漏れ伝わってきますが、今回の騒動を通じてテナントの大幅な入れ替わりが発生する商業施設は少なくないでしょう。
平時においても、商業施設のリーシング担当者にとって、地域に合ったテナントミックスを時代の変化に合わせてベストコンディションで維持してゆくのは永遠の課題です。本記事ではそんな課題に応える新時代のリーシング手法についてご紹介します。
リーシング業務をデータドリブンに実行する
近年、商業施設の運営にデータを活用する動きが目立つようになってきましたが、残念ながらリーシング業務でデータをフル活用している商業施設をお見かけすることはほとんどありません。リーシング業務には正解がなく終わりの見えない作業なので、現場の大きな負担になっているというお話もよく伺います。
スマートリーシングはそういった負担を解消するデータドリブンなリーシング手法です。言い換えると、
- 保有するデータと公開されているデータを統合・活用することで、
- 成功する可能性の高いテナントブランドを抽出し、
- その根拠をブランドと共有することでスムーズな契約を実現する
手法です。
ジオマーケティングではスマートリーシングを実現するツールとして、gleasinというウェブサービスを公開しています。商業施設運営に携わるデベロッパーやPM会社の方は無料でご登録が可能です(テナントブランド向けには、スマートな店舗開発を実現するgleasin for tenantを公開しています)。
gleasinは今後も機能拡張を進める予定ですが、現時点での機能紹介を交えながらスマートリーシングについてご紹介します。
似ている他者からヒントをもらおう
自分にそっくりな人は世界に3人いるという都市伝説がありますが、商業施設でもヒントを得るために類似施設に着目することはよく行われています。
この類似施設の抽出でよくある失敗が、規模がおなじくらいの施設を参考にしてしまうという例です。郊外の駅ビルを検討する際に、都心部の小規模な駅ビルを参考施設に挙げているようなプロジェクトは枚挙にいとまがありません。
類似施設は立地環境の類似性から抽出することが重要です。手軽な方法が同一の基準で立地環境を比較する手法で、これを商圏ベンチマーキング分析といいます。商圏ベンチマーキング分析によく使われる指標として、以下の4つがあります。
- 小売中心地の規模(量と質)
- 周辺の居住者のタイプ(量と質)
- 周辺競合環境
- 交通網(駅、IC、空港など)
日本全国には3,000を超える大型商業施設がありますが、gleasinでは施設名をクリックするだけで商圏ベンチマーキング分析を手軽に行えます。
商圏ベンチマーキングの例
また、商圏ベンチマーキング分析はテナントとの相互理解のスタート地点ともなります。類似施設の好調テナントに自施設が類似していることを説明できれば、リーシングに成功する可能性はぐっと高まるでしょう。
類似立地の施設選定とストアコンパリゾン
さらにgleasinでは、商圏ベンチマーキングの機能に加え、立地環境が類似している施設を参照することができます。
立地環境類似施設の例
ストアコンパリゾンと言うと新しい施設や流行の施設の視察が一般的ですが、抱えている商圏が異なるため参考にできる情報は限定的です。
一方で、立地環境が似ている施設の視察は、自社の施設との共通点や違いを敏感に感じ取ることができます。リーシング担当、営業担当などが一緒に現場を訪れることによって業務範囲を超えて、立地の抱える共通の課題や可能性を共有することもできます。
ブランドを定量的に評価する
話は変わって、商業施設の花形と言えばやはりアパレルブランドです(時代は変わりつつありますが…)。
アダストリアやストライプインターナショナル、パルなどのSPA企業はターゲットの顧客像によって様々なブランドを使い分けていますし、いわゆるセレクトショップ御三家(BEAMS、UNITED ARROWS、SHIPS)もたくさんのレーベルを作ることでファーストラインのブランド価値を維持しながら、より多くの消費者にアプローチしています。
このようにブランドイメージというのは定性的になんとなく把握できている方が多いと思いますが、それを言語化して他の人と共有したり、他のブランドと比較したりするのはかなり難しいと言えるでしょう。
アタックリスト作成を効率化
商業施設にとっては自施設にどんなブランドが合っているかを定量的に評価できれば、リーシングのアタックリスト作成はとても容易になります。
定量評価に売上予測モデルを作るというのは一つのやりかたですが、機械学習モデルや重回帰モデルなどの回帰モデルでモデルを作成しようとすると少なくとも10程度の商業施設のテナント別の売上データを容易する必要があります。これでは、実用化できるデベロッパーは限られてしまいます。
そこで、gleasinではブランドのウェブサイトで公開されている出店地点の情報から、それぞれのブランドが得意としている立地の傾向を算出しています。これが自施設の商圏内の居住者の傾向と類似していれば、そのブランドがマッチする可能性は高くなります。さらに、出店地点の傾向が類似しているブランドも参照できますので、自施設で好調のブランドに類似しているという観点でブランドを探し出すことも可能です。
対象ブランドは現時点(2021/3末)で物販・飲食・サービスなど合わせて約800ブランドですが、夏までに1,500ブランド程度まで増加させる予定です。
より顧客体験価値の高い施設へ
データというのは過去に起こったことなので、未来をつくっていくのにはふさわしくないと考える方がいらっしゃいます。これは半分正しく、半分誤っていると言えます。
"学ぶ"の語源が"真似ぶ"にあるように、また道を極めるには"守破離"と言われるように、新しく見えるアイディアでもすでに存在するものの発展系にすぎません。このベースをできるだけ早く効率的に作り上げ、新しいアイディアを生み出すところに労働資源を投入するというサイクルを構築することが、商業施設の顧客体験価値の継続的な向上につながるのではないでしょうか?
gleasinは商業施設のこれからのあるべき姿をサポートするプラットフォームです。ぜひご活用ください。