ショッピングセンター運営に携わる方と会話をしていると、立地の「ポテンシャル」という言葉をよく耳にします。
「現在の売上がはたして適性なのか、この土地のポテンシャルが知りたい」「この施設はポテンシャルを取りきれていない」といった使われ方をします。これは、"立地のポテンシャルを計測し、現在の売上とのギャップを認識することで、次の打ち手の意思決定を行う"という考え方に基づいています。
もともと立地の「ポテンシャル」や「パワー」という考え方は、人口が増加し国内市場が成長していたバブル崩壊ごろまでは「人口」もしくは「人口増加」と同義語でした。
しかし、現代では私たちのライフスタイルは細分化され、買物行動のパターンも多様化しています。これまでのショッピングセンターにおけるポテンシャルの考え方を概観した上で、これからのポテンシャルの計測と意思決定の方法をご紹介します。
立地のポテンシャルで使われる3つの指標
まず、ポテンシャルは絶対的に計測できるものではなく、相対的な指標です。以下の3つがポテンシャル計測の基準として、よく使われる指標です。
- 業界全体をベンチマークする
- 周辺相場をベンチマークする
- 自社施設の業績をベンチマークする
リージョナル型のショッピングセンターは周辺相場をベンチマークできるほど施設が密集していることは少なく、ベンチマークが可能なほど自社施設を多く保有していることは稀ですので、必然的に業種全体からベンチマークしていくことが多くなります。
一方で、ネイバーフッド型や駅隣接型のショッピングセンターなど多くの施設を保有している状況ですと、自社施設の業績をベンチマークしていくアプローチが可能になります。
業界全体のベンチマークに使えるSC売上ランキング
業界全体をベンチマークする時に便利な指標が、繊研新聞が毎年8月に発表する「全国主要SCアンケート調査 SC売上ランキング」です。約300施設の売上と売場面積が公表されています。これを使って、ポテンシャルを計測する一例を示します。
一般的に商業施設の売上は施設規模に比例するので、売上だけを基準にすることには無理があります。そこで、施設規模を考慮した指標「坪効率」でベンチマークをしてみます。売上に加えて、売場面積も公表されている291施設について、年坪売上(1年間の1坪あたり売上)を計算してみると以下のような分布となります。
いわゆるロングテール型のグラフとなり、平均値は264万円/年坪、中央値が310万円/年坪です。この数値を元に、自社物件の評価をすれば、仮に3,000坪の営業面積の施設を運営しているのであれば、年商79億円から93億円売れていればポテンシャルに達しているということになります。
データを絞ってポテンシャル計測の精度をあげる
先ほどの例は全国のデータの集計結果なので、これを単純に立地のポテンシャルとして利用するのは無理があります。そこで、以下のような区分でデータを絞ることで、ポテンシャル計測の精度を高めることが可能です。
- エリア別(都道府県/市区町村)
- 施設規模別
- 業態別
- 開発・運営企業別
しかし、このアプローチには以下の問題の可能性をはらんでいます。
- 対象データを絞ることでベンチマークに使えるほどのサンプルが残らない
- データの絞り方によって複数のポテンシャルの基準が発生し結論が出ない
そこで、これらの問題を避けるために、機械学習を用いたポテンシャル計測の出番となります。
機械学習によるポテンシャル計測
機械学習とは人工知能を構成する技術のひとつで、コンピュータが大量に演算することで正確な予測を実施します。
簡単にいうと、先ほどの例では坪効率にはエリアや施設規模、業態など様々な要素がポテンシャルに影響していると考えられましたが、大量の演算を行う中でそれらの要素の複雑な影響を判定し、それを加味したポテンシャル計測を行えるということです。
機械学習を用いてポテンシャル計測のモデルを作成することで、サンプル数を減らすことなく、単一のポテンシャルを計算することが可能となります。
ポテンシャル計測により業務が円滑化した事例
ジオマーケティングがポテンシャル計測に取り組んだ事例をご紹介します。
小田急電鉄は駅ナカ商業施設の「小田急マルシェ」を中心に大小様々な商業施設を保有されており、その商業区画数の合計は約1,000区画にのぼります。
それらの売上データに数多くの統計データを組み合わせて機械学習にかけることで、新宿から小田原までの70駅の業種別ポテンシャルを算出することができました。このように客観的で統一的な指標を作るということは、開発・リーシング・運営といった対立しがちな各部門の意思疎通の円滑化につながります。
ポテンシャル計測でPDCAサイクルをまわす
最後に、ポテンシャルは一度計測したら終わりではありません。
ポテンシャルを計測すると、実際の売上がポテンシャルに達していない施設が明らかになります。そこで、それらの施設を中心にマーケティング施策の実施、オペレーションの改善、施設のリニューアルなど様々な打ち手を行なっていくことになります。その後に再度ポテンシャルを計測すると、対策を実施した施設がポテンシャルを超えて、他の施設がポテンシャルに達していないということが発生します。
お分かりの通り、これは全体的なポテンシャルが底上げされたこと起因します。このように、ポテンシャル計測と施策の実施を交互に実施することでPDCAサイクルを回すことができます。
ポテンシャル計測のための仕組みを機械学習で構築することは多くの学びと発見があり、その後の組織的な成長のきっかけとなります。そして、ポテンシャル計測を通じてPDCAサイクルを回すことで、日々変化する市場へ柔軟に対応することが可能となります。
ご不明な点やお困りごとはジオマーケティングにご相談ください
ポテンシャル計測の仕組み構築について、ジオマーケティングにお気軽にご相談ください。計測するべき指標の設計や必要となるデータ、分析ステップのコンサルテーションのほか、弊社の過去分析事例などご紹介させていただきます。