ここ10年ほどで注目されるようになったキーワードにVUCA(ヴカ)があります。変化の激しさ、不確実性、複雑性、あいまい性の英語の頭文字からつくられた造語ですが、今回のコロナ禍でも私たちは社会の激しい変化をあらためて経験しました。
本記事では変化の激しい現代に求められる店舗開発ツールについて考えてみたいと思います。
ソフトウェアの世界で一般化した「アジャイル」
ソフトウェア開発の世界では変化を前提にした開発手法「アジャイル」が実践されています。これはプロトタイプを素早く構築し、ユーザーからのフィードバックを活かしながら開発していく手法です。
現代のインターネットサービスの多くはこのアジャイルの手法で構築され、ユーザーから直接寄せられるリクエストや行動履歴からのフィードバックをもとに、日々サービスの改良が施されています。
アジャイルな開発が一般的になる前は、すべての設計を済ませた後に開発に取り掛かる「ウォーターフォール」と呼ばれる開発手法が主流でした。しかし、この手法にはプロジェクト進行中の環境変化に弱いという致命的な欠点がありました。
VUCA時代の店舗開発もアジャイル化が急務と考えられますが、それはどのように実現すれば良いのでしょうか?
多店舗展開企業の3つの業務
まず、多店舗展開企業の業務は、大きく「戦略立案」「物件取得」「企画運営」の3つにわけることができます。
- 「戦略立案」:店舗網計画、立地戦略、マーケティング
- 「物件取得」:物件査定(収益性調査)、収支計画立案、投資計画立案
- 「企画運営」:商品企画、施設・販促計画
企業によって部門の呼び方は異なりますが、比較的大きい会社では3つの機能を分業する体制をとっていることが多く、小規模な組織だと戦略立案と物件取得を「店舗開発部」が担当し、物件取得後の業務を「店舗運営部」が担当するスタイルが一般的です。
データ共有によるイノベーションの加速
しかし、このような伝統的な分業体制はイノベーションを阻害してしまうことがよくあります。会社としての課題を部門間で共有できず、問題を他部門の責任として解決してしまおうとする力が働いてしまいがち、というのは心当たりがある方も多いのではないでしょうか?例えば、開発部門が物件をどんどん仕入れてくるのはいいが、業績が芳しくない時には商品部門や運営部門の責任にされてしまう、というような不満はコンサルティングに伺った先でよく耳にします。
この問題は様々な企業で根深い問題と捉えられていますが、部門間でデータを共有し、戦略的に活用していくことが解決に繋がります。
部門横断的にそれぞれの意思決定に役立つデータを提供する「顧客インサイト」部門や「データ企画」「デジタル」部門を配置する会社も増えてきています。部門間共通のマーケティング基盤があると、それぞれ部門の動きが同期し、ベテランから若手までが活発に意見を出し合う土壌が醸成されます。
店舗開発ツールに求められるスペック
ここまでの話の延長として、店舗開発業務を円滑に進めるツールにはどのようなスペックが求められるでしょうか?店舗開発業務を「戦略立案」と「物件取得」として定義すると、その業務は5つのステップに分解できます。
- 物件のリサーチと探索(ターゲットエリアの定義と選定、ターゲット物件リストの作成)
- 物件取得のための営業活動のための資料作成
- 物件査定のための売上予測
- 物件取得のための予算書作成
- 関係部署の情報共有
店舗網を拡大するのには、「1.物件のリサーチと探索」がキモとなります。自社ビジネスにとって適した立地を迅速に見つけることができれば最高です。続く2.から4.までのステップは様々な仮説をたてながら企画・検討してゆくフェーズですので、商圏分析や売上予測という客観的な数値を手に入れることができれば意思決定が早くなります。
以上のことを踏まえて、店舗開発者向けプラットフォームを定義すると、下記のポイントに集約できます。
- 簡単に自社商圏、競合店舗の立地環境の比較ができるベンチマーク機能(違いがわかる)
- 自社の店舗網のなかで成功している店舗の立地と似た環境の場所を探すことができる機能(探せる・見つかる)
- アセスメントのための売上予測機能があり、物件立地のスクリーニングをすることができる機能(予測する)
- マーケティング機能(物件検索、売上予測)と連動した空き区画情報や物件情報を取得できる機能(繋がる)
- 簡単に関係部署と情報が共有できる機能(共創する)
これまで店舗開発者向けのツールといえばGIS(地理情報システム)でしたが、上記のような示唆に富んだ分析や情報共有の実現は困難です。上記の条件を満たすツールをいち早く整備し部門横断的に活用していくことが、多店舗展開企業がこの先も成長し続けていくための必須条件と言えるでしょう。
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